第3章:評価設計とモデル・ツール選定

この章の使い方

誰向け

  • 生成AIの導入候補はあるが、どの model や tool を選ぶべきか判断基準を持てていない人。
  • PoC を「とりあえず触ってみた」で終わらせず、成功条件、失敗条件、guardrail を定義したい人。
  • benchmark の点数ではなく、実タスクで採用判断できる評価設計を作りたい人。
  • 導入後も regression eval と運用モニタリングで品質を維持したい人。

この章でできるようになること

  • task definition を書き、成功、失敗、guardrail を評価可能な形に落とし込める。
  • offline eval / regression eval / workflow-level acceptance check / human review を役割分担して設計できる。
  • model、tool、workflow を、quality だけでなく cost、latency、運用性、リスクで比較できる。
  • PoC を採用可否の判断材料として設計し、導入後の継続評価へ接続できる。

最短ルート

  1. 3.1 で benchmark の位置づけを確認する。
  2. 3.2 で task definition、成功、失敗、guardrail を定義する。
  3. 3.3 で offline eval / regression eval / workflow-level acceptance check / human review の使い分けを押さえる。
  4. 3.4 と 3.5 で比較軸と PoC 設計に進む。

深掘りルート

  1. 3.1 から 3.4 を通読し、評価設計の全体像を作る。
  2. 3.5 で PoC の仮説とデータセット設計を具体化する。
  3. 3.6 と 3.7 で継続評価、監視、更新判定まで固める。
  4. 章末テンプレートを使って、自チームの選定メモを作る。

はじめに

model 選定の議論は、しばしば次のように始まる。

  • いちばん性能が高い model を使えばよいのではないか。
  • 安い model を大量に回した方が得ではないか。
  • benchmark のスコアが高い製品を選べば安全ではないか。
  • 社内で評判の良い tool を使えば十分ではないか。

しかし、実務ではこれらだけで選ぶと失敗する。理由は単純で、業務の成功条件は benchmark の得点表に書かれていないからだ。たとえば問い合わせ対応補助で重要なのは、一般常識スコアよりも次のことかもしれない。

  • 禁止回答をしないこと
  • 社内規程に沿うこと
  • 参照元を示せること
  • 2秒以内に返ること
  • review_required へ適切に逃がせること

逆に、稟議文の下書きでは、多少遅くても論点整理の質や文脈理解の方が重要かもしれない。つまり、選定は model の絶対性能ではなく、タスクとの適合で決めるべきである。本章では benchmark を補助情報として扱いつつ、中心には実タスク eval を置く。一次情報の確認日は 2026-07-21 である。評価機能、tool 機能、長文性能、built-in tool の提供形態、preview/stable 状態、ガバナンス要件は変わりうる。本文では原則と設計方法を中心にし、固定的な製品比較表には依存しない。

3.1 benchmark は入口、採用判断は実タスク eval で行う

benchmark をどう使うべきか

benchmark は無意味ではない。むしろ候補の絞り込みには有効である。ただし、用途は限定すべきだ。benchmark が向く場面:

  • 候補 model の大まかな能力帯を把握する。
  • 明らかに用途不適合な候補を落とす。
  • model 世代更新時の参考差分を見る。

benchmark が向かない場面:

  • そのまま本番採用を決める。
  • 社内データ、社内規程、社内文体との相性を判断する。
  • tool use を含む workflow 全体の品質を測る。
  • human review 工数まで含めた総コストを見積もる。

なぜ benchmark だけでは足りないのか

実務タスクでは、問題の形が benchmark とずれていることが多い。

benchmark 的課題 実務タスク
問いが明確 依頼自体が曖昧
正解ラベルがある 正解が複数ありうる
単発回答中心 複数ターン、複数 tool、複数承認がある
外部状態変更なし チケット更新、メール下書き、台帳登録がある
安全制約は単純 法務、個人情報、社内規程が絡む

この差を無視すると、「benchmark では強いのに現場では使いにくい」現象が起こる。

benchmark を補助情報として使う手順

  1. まず task definition を書く。
  2. その task に近い benchmark があるかを見る。
  3. あれば shortlist の参考にする。
  4. 最終判断は実タスク eval に移す。

順番を逆にしてはいけない。先に benchmark を見てから用途を探すと、過剰機能か過小機能を選びやすい。

benchmark の読み方を誤らない

スコア差があっても、現場差が出ないことがある。逆に、総合 benchmark が似ていても、structured output の安定性や tool orchestration の出来で大きな差が出ることもある。実務上は、次の読み方が安全である。

  • benchmark は能力帯の目安。
  • 実タスク eval は採用判断の本体。
  • workflow-level の確認が最終関門。

benchmark が特に役立つ局面

それでも benchmark が役立つ局面はある。

  • コーディング補助を導入したい。
  • 数学・推論寄りタスクが多い。
  • 多言語要件があり候補が多い。
  • 予算の都合で試せる候補数を絞りたい。

この場合でも、最終的には自社タスクで確認する。

benchmark を実務指標へ翻訳する

例えば次の翻訳が必要である。

  • 推論 benchmark が高い → 論点整理や段階判断に向く可能性がある
  • code benchmark が高い → テスト生成やコード説明で有利かもしれない
  • 多言語 benchmark が高い → 英日混在文書の理解で候補に入る

ここで止める。「向く可能性がある」を「そのまま採用」で終わらせない。

3.2 task definition が評価設計の土台になる

まず task definition を書く

評価設計は、タスク定義なしでは始まらない。task definition は、最低でも次を含む。

  • 利用場面
  • 入力
  • 出力
  • 利用者
  • 成功条件
  • 失敗条件
  • guardrail
  • 人間の関与点

良い task definition の条件

良い task definition は、model 名を入れなくても読める。つまり、「何をしたいか」がベンダー非依存で表現されている。

悪い例

高性能 model で問い合わせ対応を自動化する。

これでは評価できない。

改善例

顧客からの問い合わせメールを入力として、
社内FAQ、契約プラン情報、障害告知を参照しながら、
返信下書きと参照根拠を生成する。
機密情報を含む場合、契約外の約束が必要な場合、または根拠が不足する場合は review_required にする。
最終送信は人間が行う。

これなら、何を測るべきかが見える。

success を定義する

success は「便利だった」では弱い。観測可能な条件にする。

例: 問い合わせ返信下書き

success の例:

  • FAQ または契約情報に基づく根拠がある。
  • 禁止表現を含まない。
  • review_required 条件で無理に回答しない。
  • 返信骨子がそのまま担当者レビューに使える。
  • 完了時間が SLA 内に収まる。

failure を定義する

failure を先に書くと、評価が現実的になる。failure の例:

  • 契約にない約束を断定する。
  • FAQ にない情報を推測で補う。
  • 個人情報を不要に再出力する。
  • 根拠欄が空なのに断定する。
  • schema が壊れて後続処理が止まる。

guardrail を定義する

guardrail は、品質基準とは少し違う。「超えてはいけない線」を定義するものである。例:

  • 個人情報の不要出力禁止
  • 差別的表現の禁止
  • 法務確認なしの断定禁止
  • root 権限相当の操作禁止
  • 外部送信前 confirmation 必須

guardrail は、良い回答を作る条件ではなく、事故を起こさない条件である。

4分類で整理すると書きやすい

task definition は次の4分類で整理するとよい。

1. 事実タスク

  • 要約
  • 抽出
  • 分類
  • 差分検出

重い評価軸:

  • 事実性
  • 網羅性
  • schema 準拠

2. 判断支援タスク

  • 稟議レビュー
  • 契約論点抽出
  • 障害優先度の候補提示

重い評価軸:

  • 根拠提示
  • review_required の適切さ
  • 失敗時の安全側への倒し方

3. 生成タスク

  • メール下書き
  • 提案書草案
  • 研修資料の骨子

重い評価軸:

  • 文脈適合
  • 読みやすさ
  • トーン整合

4. 実行連携タスク

  • チケット起票
  • 台帳更新
  • 承認 workflow 分岐

重い評価軸:

  • tool 引数正確性
  • 権限境界順守
  • 監査可能性

task definition テンプレート

タスク名:
利用場面:
入力:
出力:
success:
failure:
guardrail:
human review:

task definition のレビュー観点

  • その task は本当に単一 task か。
  • 1ターンでやらせる必要があるか。
  • 失敗時の処理が書かれているか。
  • human review 条件が曖昧でないか。
  • 後続システムとの I/O 契約が明確か。

3.3 評価レイヤを分けて設計する

単一の評価では足りない

実務では、1つの評価だけで品質を判断すると抜けが出る。なぜなら、次を同時に見なければならないからだ。

  • 単発回答の質
  • 更新後の劣化有無
  • workflow 全体の成立
  • 人間レビュー負荷

そこで、評価レイヤを分ける。

offline eval

offline eval は、保存済みデータセットで候補を比較する評価である。主な目的は、候補の足切りと改善方向の把握である。

offline eval で見るもの

  • 正答率
  • schema pass 率
  • 根拠付き率
  • 禁止回答率
  • review_required 判定の妥当性
  • tool 引数正確性

offline eval の利点

  • 同条件で比較しやすい。
  • 速く回せる。
  • prompt や schema の改善効果を測りやすい。
  • 候補 model を絞りやすい。

offline eval の限界

  • 本番の時間制約やネットワーク揺れを含まない。
  • ユーザーの曖昧入力を十分に再現しにくい。
  • tool 障害や承認待ちを再現しにくい。

regression eval

regression eval は、変更後に既存品質が落ちていないかを見る評価である。対象となる変更:

  • model 変更
  • prompt 変更
  • schema 変更
  • tool 定義変更
  • 検索基盤変更
  • guardrail 変更

regression eval が重要な理由

AI システムは、改善したつもりで別の箇所を悪化させやすい。

  • JSON は安定したが、文章品質が落ちる。
  • 長文要約は改善したが、cost が急増する。
  • 安全側に倒したが、review_required が増えすぎる。

こうした退行は、感覚では見落としやすい。

regression eval に入れるべきケース

  • 以前失敗した代表ケース
  • 壊すと困る高頻度ケース
  • 高リスクケース
  • 境界条件ケース
  • 例外系

workflow-level acceptance check

workflow-level acceptance check は、model 単体ではなく、tool、権限、承認、外部連携を含む業務フロー全体が受け入れ可能かを見る確認である。ここが、benchmark と offline eval だけでは拾えない領域である。

workflow-level acceptance check で見るもの

  • tool 呼び出し順序が妥当か
  • 必要な approval を飛ばしていないか
  • timeout や tool failure から回復できるか
  • 最終成果物が業務で本当に使えるか
  • ユーザーが待てる時間で完了するか
  • 監査ログが残るか

実例: 申請レビュー補助

単体では合格でも、全体では失敗する例がある。

  • model の判定文は正しい
  • しかし tool result の顧客ランクが stale
  • approval 画面への引き渡し項目が欠ける
  • ログに根拠 ID が残らない

これでは本番導入できない。

human review

human review は、最後の保険ではない。評価レイヤの一部として設計する。見るべき点は2つある。

  • AI 出力の質
  • AI を使ったときの人間作業の負担

human review で測るべき項目

  • レビュー時間
  • 差戻し率
  • 差戻し理由
  • 修正量
  • 説明しにくい出力の頻度
  • 安全上の不安を感じるケース

human review の設計を誤る例

  • 何を見るか未定義
  • レビュアーごとに判断軸が違う
  • 差戻し理由が記録されない
  • 「何となく不安」で採点する

human review を評価に組み込む例

  • 5分以内に妥当性確認できるか
  • 根拠欄だけで判断材料が足りるか
  • review_required 判定が過不足ないか
  • レビュー担当の心理的負荷が高すぎないか

4レイヤをどう組み合わせるか

レイヤ 主目的 タイミング
offline eval 候補比較、改善方向把握 PoC 初期、改善反復
regression eval 退行防止 変更前後、リリース前
workflow-level acceptance check 業務フロー受け入れ判断 採用前、本番前
human review 実運用負荷と最終安全確認 PoC 後半、本番運用

小さく始めるときの最小構成

リソースが限られる場合でも、次は外さない。

  1. 20〜50件の offline eval
  2. 退行防止用 regression eval の固定ケース
  3. 3〜5本の workflow-level acceptance check シナリオ
  4. 実担当者による human review

これだけでも、印象評価よりはるかに強い判断材料になる。

3.4 比較軸を先に固定し、モデルとツールを同じ表で見る

比較表はベンダー名より軸が重要

model 選定で失敗しやすいのは、「どれが良いか」から考えることだ。先に決めるべきは、「何を良いとみなすか」である。

基本の比較軸

1. task quality

  • 正答率
  • 根拠提示
  • schema pass 率
  • review_required の適切さ
  • 出力一貫性

2. latency

  • p50 / p95 応答時間
  • tool 込み完了時間
  • 初回表示時間

3. cost

  • 1件あたり API コスト
  • tool 実行費
  • review 工数込み総コスト

4. context handling

  • 長文入力の扱いやすさ
  • 情報圧縮のしやすさ
  • context overflow 時の挙動の把握しやすさ

5. structured output / tool reliability

  • schema 準拠の安定性
  • tool call 引数の正確性
  • failure handling のしやすさ
  • 並列・逐次 tool 呼び出しへの適性

6. operability

  • ログの取りやすさ
  • 監査性
  • 再試行設計のしやすさ
  • model 更新追随のしやすさ

7. safety / governance

  • guardrail 設定のしやすさ
  • 個人情報や機密情報の扱い
  • human approval 設計との整合
  • 規制・社内規程への適合説明のしやすさ

model だけでなく tool も比較対象に入れる

業務成果は model 単体では決まらない。次も比較対象に含める。

  • web search
  • file search / retrieval
  • function calling
  • code execution
  • remote MCP 連携
  • custom tool orchestration

同じ model でも、tool 基盤の差で workflow-level の完成度が変わる。

例: 社内ナレッジ回答支援の比較軸

重みの例 理由
根拠提示 社内規程を誤ると事故になる
latency 一次回答補助なので待ち時間は重要
cost 問い合わせ量が多い
長文耐性 規程、FAQ、案件履歴を扱う
tool reliability 検索不安定だと回答不能になる
human review 負荷 担当者の工数に直結する

例: 提案書下書き支援の比較軸

重みの例 理由
文脈理解 顧客背景と提案筋道が重要
日本語品質 そのまま叩き台として使うため
latency 低〜中 数秒の差より内容が重要
cost 利用頻度次第で管理対象
structured output 最終成果物が自然文中心
tool reliability 事例検索や製品情報取得がある

先に落とす条件を決める

候補比較では、「何点以上なら採用」だけでなく「この条件なら不採用」を決める。例:

  • schema pass 率が一定未満なら不採用
  • guardrail 違反が1件でもあれば再設計
  • review 時間が人手作業と大差ないなら不採用
  • tool failure 時の回復手順が設計できないなら不採用

リスクで重みを変える

同じ task でも、リスクで重みは変わる。

低リスク

  • 会議タイトル案
  • 社内アイデア発散
  • 下書きのたたき台

重い軸:

  • cost
  • latency
  • 使いやすさ

中リスク

  • FAQ 一次回答
  • 社内申請の事前チェック
  • ナレッジ検索補助

重い軸:

  • 根拠提示
  • review_required の適切さ
  • tool reliability

高リスク

  • 契約判断支援
  • 個人情報を含む業務
  • 外部状態変更を伴う運用

重い軸:

  • guardrail
  • human approval
  • 監査性
  • rollback 可否

選定会議で使う比較表テンプレート

  • offline eval 総評
  • regression eval
  • workflow-level acceptance check
  • human review 負荷
  • cost
  • latency
  • structured output 安定性
  • tool use 適性
  • ガバナンス適合性
  • 採用判断

3.5 PoC は「試す場」ではなく採用判断を下す場である

PoC の目的を明確にする

PoC で最も多い失敗は、目的が曖昧なことだ。

  • とりあえず触ってみる
  • デモが動けばよい
  • 関係者が面白いと感じればよい

これでは採用判断に使えない。PoC では次のどれを決めるのかを明示する。

  • 導入するか
  • どのリスクまで許容するか
  • どの workflow に限定導入するか
  • human review をどこに置くか
  • 次フェーズで何を追加検証するか

PoC の仮説を立てる

PoC は仮説検証である。良い仮説の例:

  • 「FAQ 一次回答では、検索付き構成なら手作業よりレビュー時間を短縮できる」
  • 「申請レビューでは、structured output にすると差戻し理由の記録品質が上がる」
  • 「軽量 model + review_required 方式なら、品質を保ったまま cost を抑えられる」

悪い仮説の例:

  • 「AI を入れると効率化できるはず」

PoC の最小構成

1. 対象 task を絞る

PoC で多機能にしすぎると、何が効いたか分からない。まずは1 task か、せいぜい関連2 task に絞る。

2. ベースラインを決める

比較対象がない PoC は評価できない。ベースライン候補:

  • 完全手作業
  • 現行ルールベース
  • 既存の軽量 model 構成
  • 既存の FAQ 検索のみ構成

3. データセットを作る

PoC 用データは、きれいな成功例だけでなく、難例を含める。含めたいケース:

  • 高頻度ケース
  • 高リスクケース
  • 境界ケース
  • 欠損情報ケース
  • tool miss が起きやすいケース

4. 受け入れ基準を決める

PoC の終わりに「それで、採用するのか」を決められる基準を置く。例:

  • offline eval の基準達成
  • workflow-level acceptance check の主要シナリオ通過
  • human review 時間の短縮
  • guardrail 違反ゼロ
  • 総コストが許容範囲内

PoC で見るべき副作用

PoC では、表の成功だけでなく副作用を見る。

  • レビュー担当の負荷が増えていないか
  • 説明責任が弱くなっていないか
  • 例外処理が増えていないか
  • ログ保存が難しくなっていないか
  • tool 権限が過剰になっていないか

PoC レポートに必須の項目

  • task definition
  • 仮説
  • 比較対象
  • データセット概要
  • offline eval 結果
  • regression eval 方針
  • workflow-level acceptance check 結果
  • human review 所見
  • cost 見積
  • リスクと未解決事項
  • 採用 / 条件付き採用 / 不採用 の判断

PoC の判断を3段階に分ける

採用

  • 主要受け入れ基準を満たす
  • guardrail 違反なし
  • review 負荷が許容範囲
  • 運用設計が組める

条件付き採用

  • 主目的は達成したが、高リスクケースは review_required に限定する
  • tool 権限を再設計する必要がある
  • データセット拡張後に再判定する

不採用

  • ベースラインを上回らない
  • review 工数が増える
  • guardrail 違反が解消できない
  • workflow-level で業務要件を満たせない

3.6 継続評価を前提に運用する

導入後に品質は変わる

AI システムは、導入した瞬間が完成ではない。品質が変わる要因は多い。

  • model 更新
  • prompt 改修
  • 検索インデックス更新
  • tool 定義変更
  • 業務ルール変更
  • ユーザーの使い方変化

このため、継続評価は必須である。

継続評価で見るもの

  • quality drift
  • safety drift
  • review 負荷の増減
  • latency 悪化
  • cost 増加
  • 例外系の増加

ログから作る観測指標

指標 意味
review_required 率 model が安全側に倒れているか、逃げすぎていないか
差戻し率 出力品質が落ちていないか
根拠欠落率 参照設計が崩れていないか
tool failure 率 外部連携の安定性
p95 完了時間 ユーザー体験の悪化検知
1件総コスト token 増、再試行増の検知

定期 regression eval を運用へ組み込む

推奨されるタイミング:

  • model 切替前
  • prompt / schema 更新前後
  • 検索インデックス更新後
  • guardrail 変更後
  • 月次または四半期レビュー

本番データから eval ケースを育てる

継続評価では、最初に作ったデータセットだけでは足りない。本番から次を追加する。

  • 差戻しが多いケース
  • ユーザー苦情が出たケース
  • 監査で指摘されたケース
  • 例外的に良かったケース
  • 新しい業務パターン

これにより eval は現場に追従する。

canary と段階展開

変更を一気に全体へ出すより、段階展開の方が安全である。

  • 一部チームで先行
  • 一部案件で先行
  • 低リスク task だけ先行
  • review_required を厚くして先行

canary では、旧構成と新構成を同じ基準で比較する。

「使えるが危ない」を放置しない

導入後にありがちなのが、現場が便利さを感じるあまり、当初の制限を外していくことだ。

  • review_required を減らす
  • 承認なし tool を増やす
  • ログを簡略化する
  • 高リスク文面もそのまま送る

こうした運用 drift を防ぐには、評価とガバナンスを接続する必要がある。

  • 変更申請
  • 受け入れ基準
  • ログ監査
  • 定期レビュー

3.7 モデル選定とツール選定を分離しつつ接続する

model が良くても tool 設計が悪ければ失敗する

model 選定と tool 選定は別物だが、実務では接続して考える必要がある。たとえば、回答品質が高い model でも、必要な検索、構造化引数、承認ゲートとの接続が弱ければ採用しにくい。逆に、model は中庸でも、tool orchestration と review 設計が良ければ十分な成果が出ることがある。

model 選定の観点

  • task に必要な reasoning / writing / extraction の適性
  • 長文入力や要約の安定性
  • structured output の扱いやすさ
  • tool call の安定性
  • latency / cost
  • 更新追随のしやすさ

ツール選定の観点

  • 必要な情報源へ接続できるか
  • 権限を最小化できるか
  • 監査ログを残せるか
  • failure を扱いやすいか
  • built-in と custom をどう分けるか
  • MCP など標準的な接続で疎結合にできるか

built-in tools と custom tools の考え方

2026-07-21 時点の一次情報では、主要プラットフォームは built-in tool と custom tool の両方を提供する方向に進んでいる。設計上は次で分けると扱いやすい。

built-in tools を優先しやすい場面

  • web 検索
  • file search
  • code execution
  • プラットフォーム標準の安全機構を活用したい場面

custom tools を優先しやすい場面

  • 社内固有 API
  • 厳密な権限制御
  • 業務独自の approval flow
  • 監査用 metadata を細かく残したい場面

MCP を選択肢に入れる場面

MCP は、model と外部ツール・データ接続を標準化する選択肢として重要である。向いている場面:

  • 複数ツールを疎結合で管理したい
  • ベンダーごとに個別実装を増やしたくない
  • tool metadata と UI で利用者へ可視化したい
  • human approval を含むホスト側制御を持ちたい

ただし、MCP を使えば安全になるわけではない。ツール説明、権限、承認、監査設計は別途必要である。

選定判断の実例

例1: 社内FAQ回答支援

  • model 重視点: 要約、根拠提示、日本語品質
  • tool 重視点: file search、参照 ID、権限分離
  • human review: 対外送信前に必須

例2: 障害一次トリアージ

  • model 重視点: 事実抽出、分類、簡潔さ
  • tool 重視点: ログ検索、監視アラート取得、チケット起票
  • human review: sev 判定や対外影響は必須

例3: 提案書草案作成

  • model 重視点: 長文文脈理解、構成力
  • tool 重視点: 過去事例検索、製品仕様参照
  • human review: 商談戦略、価格、対外約束は必須

3.8 採用判断メモを残す

なぜ文書化が必要か

AI の選定は、あとから「なぜこの構成にしたのか」を説明できなければ運用で困る。

  • なぜその model を選んだのか
  • なぜ built-in ではなく custom tool にしたのか
  • なぜ human review をここに置いたのか
  • なぜ benchmark より実タスク eval を優先したのか

これを口頭で済ませると、担当交代時に再現できない。

採用判断メモの雛形

対象タスク:

候補:
- model 候補
- tool 候補
- 検索 / orchestration 構成

比較軸:
- quality
- latency
- cost
- safety
- operability

評価結果:
- offline eval
- regression eval
- workflow-level acceptance check
- human review

主なリスク:

採用判断:
- 採用 / 条件付き採用 / 不採用

再確認条件:
- model 更新時
- schema 変更時
- tool 権限変更時
- 規程変更時

再確認条件を明示する

時点依存の主張は、再確認条件とセットで残す。例:

  • 長文性能に依存した設計のため、model major update 時に再評価
  • built-in tool の stable 化に依存するため、API status 更新時に再確認
  • 外部送信を含むため、法務・個人情報ルール変更時に再確認
  • preview 機能を含むため、本番採用前に stable 版へ移行可否を確認

この章の実務的な結論

  • benchmark は候補整理に使う
  • 採用判断は task definition と実タスク eval で行う
  • 4つの評価レイヤを分ける
  • model と tool を同じ比較表で見る
  • PoC は採用判断の場にする
  • 導入後も regression eval を回す

章末まとめ

  • benchmark は有用だが補助情報であり、採用判断の中心は実タスク eval に置くべきである。
  • 評価設計の出発点は task definition であり、success、failure、guardrail、human review を観測可能な形で定義する必要がある。
  • offline eval / regression eval / workflow-level acceptance check / human review は役割が異なるため、分けて設計する。
  • model 選定は quality だけでなく、cost、latency、structured output、tool reliability、operability、safety を含む多軸比較で行う。
  • PoC は触ってみる場ではなく、仮説を検証し、採用・条件付き採用・不採用を決める場である。
  • 継続評価を前提にし、本番データから regression ケースを育てることで、更新や運用 drift に耐えやすくなる。
  • model と tool は分離して比較しつつ、workflow 全体で受け入れ可能かを最終判断することが重要である。

実務チェックリスト

  • task definition を文書化した。
  • success を観測可能な条件で書いた。
  • failure を先に列挙した。
  • guardrail を品質基準と分けて定義した。
  • offline eval のデータセットを用意した。
  • regression eval に高頻度・高リスク・過去失敗ケースを入れた。
  • workflow-level acceptance check のシナリオを作った。
  • human review の確認観点と差戻し理由を定義した。
  • benchmark を shortlist の参考にとどめている。
  • cost、latency、quality、safety を同じ比較表で見ている。
  • tool 権限と approval flow を比較対象に含めた。
  • PoC の受け入れ基準と不採用条件を決めた。
  • 本番導入後の継続評価と再確認条件を決めた。

次に読む章・参照付録

Source Notes