第2章:論理的思考の基本構造
学習目標
この章を読み終えると、以下のことができるようになります:
- 論理の3要素(前提・推論・結論)を正しく使い分ける
- 演繹法と帰納法を適切に使い分ける
- 因果関係と相関関係を正確に区別する
- よくある論理の落とし穴を回避できる
2.1 論理の3要素(前提・推論・結論)
2.1.1 基本構造の理解
論理的思考の基本形
前提(根拠・データ) → 推論(思考過程) → 結論(答え・判断)
2.1.2 前提(Premise)
定義: 考えの出発点となる事実、データ、仮定
良い前提の条件
- 事実に基づいている
- 検証可能である
- 関連性がある
- 十分である
前提の例
- 事実データ:「昨年の売上は前年比10%減少した」
- 観察結果:「顧客からの問い合わせが増加している」
- 仮定:「競合他社の価格は当社より20%安い」
2.1.3 推論(Reasoning)
定義: 前提から結論に至る思考過程
推論の種類
- 演繹推論: 一般法則から特定事例を導く
- 帰納推論: 特定事例から一般法則を導く
- 類推推論: 類似事例から推測する
2.1.4 結論(Conclusion)
定義: 推論の結果として導かれる判断や答え
良い結論の条件
- 前提と論理的に整合している
- 明確で具体的である
- 実行可能である
- 検証可能である
2.1.5 論理構造の実例
例:売上改善の提案
前提
- 今四半期の売上が前年同期比15%減少
- 顧客アンケートで「価格が高い」との意見が60%
- 競合他社が20%の値下げを実施
推論 価格競争力の低下が売上減少の主因である可能性が高い → 価格戦略の見直しが必要 → 適切な価格調整により売上回復が期待できる
結論 主力商品の価格を10%下げ、販売促進キャンペーンを実施する
2.2 演繹法と帰納法の使い分け
2.2.1 演繹法(Deductive Reasoning)
定義: 一般的な法則やルールから、特定の事例についての結論を導く推論方法
基本形
大前提(一般法則)
小前提(特定事実)
結論(特定判断)
演繹法の例
- 大前提:「売上目標未達の部署はボーナスが減額される」
- 小前提:「我が部署は今期売上目標を10%下回った」
- 結論:「我が部署のボーナスは減額される」
演繹法が有効な場面
- ルールや規則の適用
- 既知の法則の当てはめ
- 方針の具体的実行策決定
2.2.2 帰納法(Inductive Reasoning)
定義: 複数の特定事例から、一般的な法則やパターンを導く推論方法
基本形
事例1、事例2、事例3...
↓
共通パターンの発見
↓
一般法則の導出
帰納法の例
- 事例1:「A商品の売上が月曜日に多い」
- 事例2:「B商品も月曜日の売上が最高」
- 事例3:「C商品も同様の傾向」
- 結論:「当社商品は月曜日に売れやすい傾向がある」
帰納法が有効な場面
- データ分析からの傾向発見
- 顧客行動パターンの把握
- 新しい仮説の構築
2.2.3 演繹法と帰納法の組み合わせ
実際のビジネスでは両方を組み合わせて使用
- 帰納法で仮説構築:データから傾向を発見
- 演繹法で検証:仮説を新しいデータに適用
- 帰納法で修正:結果から仮説を改善
2.3 因果関係と相関関係の区別
2.3.1 相関関係(Correlation)
定義: 2つの変数が同時に変化する関係
特徴
- 同時に変化するが、一方が他方の原因とは限らない
- 統計的な関連性を示す
- 第三の要因が影響している可能性がある
相関関係の例
- アイスクリームの売上と水難事故の件数
- 実際の原因:気温の上昇(第三の要因)
2.3.2 因果関係(Causation)
定義: 一方の変化が他方の変化の原因となる関係
因果関係の条件
- 時間的前後関係: 原因が結果より先に起こる
- 共変関係: 原因が変化すると結果も変化する
- 他の説明の排除: 他の要因では説明できない
因果関係の例
- 広告費の増加 → 売上の増加
- 研修実施 → スキル向上
2.3.3 ビジネスでの判断ポイント
相関関係を因果関係と誤解する危険
- 間違った施策の実行
- 無駄な投資
- 根本原因の見逃し
正しい判断のための確認事項
- 時間的順序は正しいか?
- 他の要因は考慮したか?
- 複数のデータで確認したか?
- 合理的な説明ができるか?
2.4 よくある論理の落とし穴
2.4.1 論理的誤謬の種類
1. 早まった一般化
- 少ない事例から性急に結論を導く
- 例:「2人の顧客が不満を言った→商品に問題がある」
2. 確証バイアス
- 自分の考えを支持する情報のみを集める
- 例:好都合なデータだけを報告に使用
3. 偽の二分法
- 選択肢を2つに限定して考える
- 例:「成功するか失敗するかだ」(中間の可能性を無視)
4. 権威への訴え
- 専門性と関係ない権威者の意見を根拠にする
- 例:「社長が言ったから正しい」
5. 感情的操作
- 論理ではなく感情に訴える
- 例:「こんなに頑張ったのだから認めてほしい」
2.4.2 論理チェックの方法
セルフチェック項目 □ 前提は事実に基づいているか? □ 推論に飛躍はないか? □ 反対意見も考慮したか? □ 結論は前提から論理的に導かれているか? □ 他の説明の可能性はないか?
他者チェックの活用
- 同僚による論理検証
- 悪魔の代弁者(Devil’s Advocate)の活用
- ブレインストーミングでの多角的検討
2.4.3 AI活用時の注意点
AIの回答にも論理チェックが必要
- AIも論理的誤謬を含む可能性
- 人間が最終的な論理検証を実施
- 複数の角度からの確認が重要
2.5 実践的な論理構築法
2.5.1 論理ピラミッド法
構造
結論(What)
├── 理由1(Why)
│ ├── 根拠1-1
│ └── 根拠1-2
├── 理由2(Why)
│ ├── 根拠2-1
│ └── 根拠2-2
└── 理由3(Why)
├── 根拠3-1
└── 根拠3-2
2.5.2 PREP法
構造
- Point(結論)
- Reason(理由)
- Example(具体例)
- Point(結論の再提示)
2.5.3 論理的な文章構成
導入: 問題提起・背景説明 本論: 論理的展開(根拠→推論→結論) 結論: まとめ・提案・次のアクション
章末演習
演習2-1:論理構造の分析
以下の文章の論理構造を「前提→推論→結論」に分解してください:
「競合他社が新商品を発売し、当社の市場シェアが3%低下した。このまま対策を取らなければ、さらにシェアを失う可能性が高い。したがって、来月までに対抗商品を投入すべきである。」
演習2-2:演繹法と帰納法の識別
以下の推論が演繹法か帰納法かを判断し、理由を説明してください:
-
過去3年間の売上データを分析した結果、12月の売上が最も高いことが分かった。来年の12月も売上が最も高くなるだろう。
-
優秀な営業担当者は月間目標を達成する。田中さんは今月目標を達成した。したがって田中さんは優秀な営業担当者である。
演習2-3:因果関係と相関関係の判断
以下の関係が因果関係か相関関係かを判断し、理由を説明してください:
「研修参加者のスキルテスト得点が、非参加者より平均20点高い」
演習2-4:論理の落とし穴の発見
以下の文章にある論理的誤謬を指摘し、正しい論理に修正してください:
「昨日、A社の営業担当者2人に会ったが、どちらも態度が悪かった。A社の営業は皆、質が低いに違いない。」
理解度チェック
□ 論理の3要素を正しく説明できる □ 演繹法と帰納法の違いと使い分けができる □ 因果関係と相関関係を正確に区別できる □ 主要な論理的誤謬を識別し回避できる □ 論理ピラミッド法やPREP法を使って論理構成ができる
次章への橋渡し
この章では論理的思考の基本構造を学びました。次の第3章では、これらの論理的思考を情報の整理と分析に活用する具体的な方法を学んでいきます。大量の情報の中から必要なものを見つけ、論理的に分析する技術を身につけましょう。