付録:AIでの壁打ち・練習(ガードレール付き)
本付録は、交渉の準備・練習・振り返りを、生成AIで効率化するための補助輪である。AIの出力は「判断材料」であり、意思決定と説明責任は人間が持つ。
1. ガードレール(必須)
1.1 入れてはいけない情報
以下は、原則として入力しない。
- 機密情報(未公開の事業計画、顧客情報、価格条件、契約条項の詳細など)
- 個人情報(氏名、メール、電話、個人を特定できる情報)
- 認証情報(トークン、鍵、内部URL、構成情報の生データ)
入れたい場合は、抽象化またはマスキングを前提にする。
1.2 マスキングの基本パターン
- 固有名詞を役割に置換する(例: 「鈴木CFO」→「CFO」)
- 数値はレンジにする(例: 「3,200万円」→「3,000〜3,500万円」)
- 具体の顧客名やプロダクト名は「顧客A」「プロダクトX」にする
- 契約条件の細部は「SLA/責任分界/違約金あり」など論点レベルに留める
1.3 AI出力の取り扱い
- 事実は必ず一次情報で確認する(AIは誤る)
- 断定表現は、社内外に出す前に根拠を付けて言い換える
- 相手を操作する用途(欺瞞、圧力、隠蔽)には使わない
2. 使いどころ(準備→実行→振り返り)
2.1 準備:ステークホルダー分析の壁打ち
入力例(抽象化済み):
- 交渉テーマ: 「セキュリティ対策の追加投資」
- 相手: 「CFO」「PM」
- 現状: 「運用負荷が増えている」「監査の指摘が増えている」
- 期限: 「次四半期まで」
プロンプト例:
「以下の条件で、利害(Interest)と立場(Position)を推定し、想定反論と対策案を列挙してください。BATNAと最低受容ラインも案を出してください。出力は“推定”として書き、断定しないでください。」
2.2 実行前:想定問答(反論パターン)を作る
プロンプト例:
「あなたは“CFO視点”“PM視点”“運用責任者視点”の3役です。私の提案に対して、反論を各5個ずつ出し、その反論に対する回答案を“短文→根拠→条件提示”の順で作ってください。」
2.3 実行前:譲歩設計(トレードオフ案)を広げる
プロンプト例:
「以下の制約条件のもとで、交渉のトレードオフ案を10個出してください。各案は『何を譲る/何を得る/条件/リスク/フォローアップ』で整理してください。こちらが譲れる順(低コスト→高コスト)に並べてください。」
2.4 振り返り:交渉ログから改善点を抽出する
プロンプト例:
「以下は交渉ログの要約です。事実(何が起きたか)/解釈(なぜそうなったか)/次回の実験(何を変えるか)に分けて整理してください。次回の実験は“1回で検証できる最小単位”で3つ提案してください。」
3. 本書テンプレートと組み合わせる
生成AIは、付録のテンプレートを埋める支援として使いやすい。たとえば、付録:実践ツールキット のYAMLを抽象化して入力し、空欄の候補を列挙させる。
ただし、テンプレートの項目は「埋めること」よりも「判断軸を揃えること」が目的である。迷った場合は、交渉の基礎語彙(最小モデル) と 用語集 に戻り、用語の意味を先に固定する。
次に読む: 付録:ケース集(NG→OK) / 付録:実践ツールキット / 目次(トップ)