第1章:クラスタ設計の全体像
クラスタ設計は「要件(SLO/セキュリティ/コスト/運用体制)」を入力に、構成と運用標準を決めるプロセスです。
本章では、設計の論点を体系化し、設計レビューに耐えるアウトプットへ落とし込むための観点を整理します。
学習目標
- 要件から設計論点へ落とし込む手順(型)を説明できる
- 設計のアウトプット(構成図、運用標準、Runbook)を定義できる
- 設計レビューで確認すべき観点をチェックリスト化できる
扱う範囲 / 扱わない範囲
扱う範囲
- 要件整理(SLO/可用性/セキュリティ/コンプライアンス/コスト)
- アーキテクチャ論点(Control Plane、ネットワーク、ストレージ、アイデンティティ)
- 運用設計(監視、ログ、復旧、変更管理)
扱わない範囲
- 個別クラウドのサービス選定手順の網羅(本書はベンダ中立を優先)
- 具体的な製品導入手順(Prometheus 等の手順書)
設計の入力(要件)
最低限、以下を明文化してください。
- 利用者/テナントの範囲(誰が使うか、隔離要件はあるか)
- SLO(可用性、遅延、エラーレートなどの目標)
- セキュリティ要件(認証/認可、監査、秘密情報、ネットワーク境界)
- データ要件(永続化、バックアップ、RTO/RPO)
- 変更頻度と運用体制(オンコール、メンテナンスウィンドウ)
- コスト制約(上限、予実管理、チャージバックの要否)
設計のアウトプット(成果物)
設計の成果物は「構成」だけでなく「運用可能性」を含めて定義します。
- アーキテクチャ図(責任範囲、境界、依存関係)
- 標準(Namespace/RBAC、ラベル/命名、アドミッション方針)
- 監視/ログ/アラート設計(SLI/SLO と紐付く)
- 復旧設計(バックアップ/リストア、演習計画)
- 変更管理(アップグレード、ロールバック、検証)
- Runbook/Playbook(障害対応と定常作業)
設計論点(設計軸)
代表的な設計軸を整理します。
- 可用性: Control Plane/ノード/依存サービスの単一障害点を排除できているか
- スケーラビリティ: ノードスケール、API負荷、IP枯渇、容量逼迫への対策があるか
- セキュリティ: 最小権限、分離、監査、秘密情報の取り扱いが定義されているか
- 運用性: 監視/ログ/復旧/変更管理が標準化されているか
- コスト: 需要変動、予約/割引、過剰割当、可視化の仕組みがあるか
実務チェック観点(最低5項目)
- 要件(SLO/RTO/RPO/セキュリティ)と設計判断のトレーサビリティがある
- 監視/ログ/復旧の三点セットが、クラスタ標準として定義されている
- アップグレード戦略(頻度、検証、ロールバック)が運用計画に落ちている
- テナント増加を見据えた境界(Namespace/RBAC/Quota)が設計されている
- 設計変更の意思決定プロセス(承認、周知、証跡)がある
よくある落とし穴
- 「構成図はあるが運用設計がない」ため、障害時に復旧手順が定まらない
- 監視は導入したが、SLO と結びつかずアラートが過多になる
まとめ / 次に読む
- 次に読む: 第2章:コントロールプレーン設計