はじめに
この書籍は、ソフトウェア開発における形式的手法の基礎から実践的な応用まで、統合的な理解を目指して執筆されました。現代のソフトウェアシステムは、過去に例を見ない複雑さと、それに伴う高い信頼性要求に直面しています。従来のテストやレビューといった手法だけでは、もはやこの挑戦に応えることは困難になっています。
本書の目的
形式的手法は、数学的な厳密性を通じてソフトウェアの正しさを保証する手法です。本書では、その理論的基盤から実際のツールの使用法、現実のプロジェクトでの適用戦略まで、読者が形式的手法を実際に活用できるようになることを目的としています。
想定読者
- コンピュータサイエンスや情報工学を専攻する学部生・大学院生
- より信頼性の高いソフトウェア開発を目指すソフトウェアエンジニア
- 安全性やセキュリティが重要なシステムの開発に関わる技術者
- 形式的手法の研究に興味を持つ研究者
前提知識
読者には以下の知識を前提としています:
- 少なくとも一つのプログラミング言語での基本的なプログラム作成経験
- データ構造とアルゴリズムの基本概念
- 高校レベルの数学(集合、論理、関数)の理解
本書の構成
本書は4部13章で構成されています:
第1部:基礎編(第1〜3章) 形式的手法の必要性と基本概念を理解します。
第2部:手法編(第4〜7章) 主要な形式的手法(Alloy、Z記法、CSP、TLA+)を学習します。
第3部:検証編(第8〜10章) システムの正しさを確認する手法(模型検査、定理証明、プログラム検証)を習得します。
第4部:実践編(第11〜13章) 現実のプロジェクトでの適用方法と事例研究を通じて、実用的な知識を獲得します。
学習の進め方
各章は明確な学習目標を持ち、前章までの知識を前提として新しい概念を導入しています。理論的な説明と実践的な演習をバランスよく配置し、読者が段階的に理解を深められるよう工夫しています。
巻末の付録には、数学的基礎の復習、ツールのインストールガイド、記法対照表、演習問題の解答、参考文献などを収録しており、自学自習を支援します。
謝辞
本書の執筆にあたり、多くの方々からご支援とご協力をいただきました。形式的手法の分野を切り開いてきた研究者の皆様、実際の産業応用を推進してきた技術者の皆様、そして建設的なフィードバックをくださった査読者の皆様に心より感謝申し上げます。
2025年1月
太田和彦(株式会社アイティードゥ)