付録A:コンピュータサイエンス重要事件年表
1800年代:機械計算の黎明期
1815年
- エイダ・ラブレス誕生(12月10日、ロンドン)
1822年
- チャールズ・バベッジ、差分機関の設計開始
1833年
- エイダ・ラブレス(17歳)、社交界デビュー
- チャールズ・バベッジとの運命的出会い
1834年
- バベッジ、解析機関の設計開始
- 現代コンピュータの概念的先駆け
1843年
- エイダ・ラブレス、「Note G」発表
- 世界初のプログラム:ベルヌーイ数計算アルゴリズム
- 機械の創造的可能性について先見的洞察
1852年
- エイダ・ラブレス死去(11月27日、享年36歳)
1854年
- ジョージ・ブール、『思考の法則』出版
- ブール代数(Boolean Algebra)の確立
- デジタル回路設計の数学的基盤
1886年
- ハーマン・ホレリス、パンチカード式集計機発明
- 1890年アメリカ国勢調査で使用
- 後のIBM社の前身技術
1900年代前半:理論計算機科学の誕生
1900年
- ダビド・ヒルベルト、23の数学問題提示
- 第10問:ディオファンタス方程式の判定問題
- 後にチューリングが取り組む決定問題の起源
1906年
- グレース・ホッパー誕生(12月9日、ニューヨーク)
1912年
- アラン・チューリング誕生(6月23日、ロンドン)
1915年
- 高橋秀俊誕生(9月15日、東京)
- 日本のコンピュータ開発の父
1930年代
- 1936年:チューリング、「計算可能数について」論文発表
- チューリングマシン概念の提示
- 計算理論の数学的基盤確立
- 現代コンピュータサイエンスの理論的出発点
1937年
- クロード・シャノン、修士論文でブール代数の電気回路への応用発表
- デジタル回路設計の理論的基盤
1939年
- 第二次世界大戦勃発
- チューリング、政府暗号学校(ブレッチリー・パーク)に招集
1940年代:電子計算機の実現
1940年
- ジョン・アタナソフとクリフォード・ベリー、ABC(アタナソフ・ベリー・コンピュータ)開発
- 世界初の電子デジタル計算機の一つ
1941年
- コンラード・ツーゼ(ドイツ)、Z3完成
- 世界初のプログラム制御式コンピュータ
1943年
- 1月:コロッサス Mark I(イギリス)運用開始
- ドイツ軍暗号解読用の電子計算機
- チューリングも開発に関与
- 9月:高橋秀俊、ETL Mark I設計開始(日本初の電子計算機研究)
- 12月:嶋正利誕生(12月22日、静岡県)
1944年
- ハーバード Mark I運用開始
- グレース・ホッパー、プログラマーとして参加
- 長さ17m、重量5トンの機械式計算機
1945年
- 2月:ENIAC(Electronic Numerical Integrator and Computer)完成
- ペンシルバニア大学
- 世界初の汎用電子デジタル計算機
- 6月:ジョン・フォン・ノイマン、「EDVACに関する報告書の第一草稿」発表
- ストアードプログラム方式の提案
- 現代コンピュータアーキテクチャの基礎
- 8月:第二次世界大戦終結
1947年
- 9月9日:グレース・ホッパー、Harvard Mark II で実際の虫(moth)を発見
- 「コンピュータのバグ」という用語の起源
- 12月:ベル研究所、トランジスタ発明
- ウィリアム・ショックレー、ジョン・バーディーン、ウォルター・ブラッテン
1948年
- クロード・シャノン、「通信の数学的理論」発表
- 情報理論の確立
- ビット(bit)という概念の導入
1949年
- EDVAC運用開始(ストアードプログラム方式を実装)
- EDSAC(イギリス)運用開始
1950年代:プログラミング言語とAIの始まり
1950年
- チューリング、「Computing Machinery and Intelligence」発表
- チューリングテストの提案
- 「機械は考えることができるか?」という問い
1951年
- UNIVAC I:世界初の商用コンピュータ
- アメリカ大統領選挙の結果予測で注目
1952年
- グレース・ホッパー、A-0システム開発
- 世界初のコンパイラシステム
1954年
- 6月7日:アラン・チューリング死去(享年41歳)
- IBM 650発表:大量生産された初期のコンピュータ
1955年
- 2月24日:スティーブ・ジョブズ誕生(サンフランシスコ)
- 8月11日:スティーブ・ウォズニアック誕生(サンノゼ)
- 12月30日:ティム・バーナーズ=リー誕生(ロンドン)
1956年
- ダートマス会議:「人工知能」という用語の誕生
- ジョン・マッカーシー、マービン・ミンスキーらが組織
1957年
- FORTRAN(FORmula TRANslation)リリース
- IBM開発、科学技術計算用プログラミング言語
- ジョン・バッカス率いるチーム
1958年
- LISP(LISt Processing)開発
- ジョン・マッカーシー、AI研究用言語として設計
1959年
- グレース・ホッパー、FLOW-MATICからCOBOL開発開始
- ビジネス用プログラミング言語の嚆矢
1960年代:コンピュータの小型化とネットワークの始まり
1960年
- COBOL(COmmon Business Oriented Language)標準化
- グレース・ホッパーの思想「コンピュータを英語で話させたい」の実現
1962年
- J.C.R. リックライダー、「銀河間コンピュータネットワーク」構想発表
- インターネットの概念的起源
1964年
- IBM System/360発表
- コンピュータファミリーの概念導入
- メインフレーム時代の確立
1965年
- ゴードン・ムーア、「ムーアの法則」発表
- 半導体の集積度が18-24ヶ月で2倍になる法則
1969年
- ARPANET運用開始(10月29日)
- 最初のメッセージ:UCLA→スタンフォード研究所
- インターネットの直接的起源
- UNIX開発開始(ベル研究所、ケン・トンプソン、デニス・リッチー)
1970年代:パーソナルコンピュータ革命の前夜
1970年
- Intel 4004設計開始
- 嶋正利とIntelの共同開発プロジェクト
- ビジコン社の電卓用プロセッサとして
1971年
- 11月15日:Intel 4004発表
- 世界初のマイクロプロセッサ
- 嶋正利の重要な貢献
1972年
- C言語開発(デニス・リッチー)
- システムプログラミングの革命
1973年
- 3月26日:ラリー・ペイジ誕生(ミシガン州)
- 8月21日:セルゲイ・ブリン誕生(モスクワ)
- 5月22日:イーサネット発明(ロバート・メトカーフ、ゼロックス・パロアルト研究所)
1975年
- 1月:Altair 8800発表(Popular Electronics誌)
- パーソナルコンピュータ革命の火付け役
- 4月4日:マイクロソフト創設(ビル・ゲイツ、ポール・アレン)
- Homebrew Computer Club設立(カリフォルニア)
- ジョブズ、ウォズニアック参加
1976年
- 4月1日:Apple Computer Company設立
- スティーブ・ジョブズ、スティーブ・ウォズニアック、ロナルド・ウェイン
- 7月:Apple I発売
- 段ボール箱に入った回路基板
- ガレージでの手作り生産
1977年
- 6月:Apple II発表
- カラー表示、拡張スロット搭載
- パーソナルコンピュータの大衆化
1978年
- VisiCalcリリース(Apple II用)
- 世界初のスプレッドシートソフト
- Apple IIの「キラーアプリケーション」
1979年
- VisiCalc大ヒット
- ビジネス用途でのパーソナルコンピュータ普及
1980年代:GUI革命とPC時代の到来
1980年
- 12月12日:Apple株式公開
- 史上最大のIPO(当時)
1981年
- 8月12日:IBM PC発表
- MS-DOS搭載、PC/AT互換機の標準
1983年
- 1月:Apple Lisa発表
- 商用コンピュータ初のGUI搭載
- 9月:リチャード・ストールマン、GNUプロジェクト開始
1984年
- 1月24日:Macintosh発表
- 「1984年」CM(スーパーボウル)で話題
- マウス、アイコン、ウィンドウの普及
- 5月14日:マーク・ザッカーバーグ誕生(ニューヨーク州)
1985年
- 11月20日:Windows 1.0リリース(マイクロソフト)
- GUIのPC普及開始
1989年
- 3月:ティム・バーナーズ=リー、CERN で「情報管理に関する提案」提出
- World Wide Web の概念的出発点
- 11月9日:ベルリンの壁崩壊
- 11月:最初のWebブラウザ「WorldWideWeb」開発開始
1990年代:インターネット普及とWebの誕生
1990年
- 12月20日:世界初のWebサイト(info.cern.ch)公開
- HTML、HTTP、URLの誕生
1991年
- 8月6日:ティム・バーナーズ=リー、World Wide Web を一般公開
- 無償公開という革命的決断
- Linuxカーネル公開(リーナス・トーバルズ)
1992年
- グレース・ホッパー死去(1月1日、享年85歳)
1993年
- Mosaicブラウザリリース(イリノイ大学)
- 画像表示機能付きブラウザの普及
1994年
- 7月5日:Jeff Bezos、Amazon.com設立
- ガレージでオンライン書店として開始
- Yahoo!設立(デビッド・ファイロ、ジェリー・ヤン)
- Netscape Navigatorリリース
1995年
- 5月23日:JavaScript発表(ブレンダン・アイク、Netscape)
- 8月24日:Windows 95発売
- 9月4日:eBay設立
- SSL(Secure Sockets Layer)実用化
1996年
- BackRubプロジェクト開始(ラリー・ペイジ、セルゲイ・ブリン)
- 後のGoogleの原型
- ICQリリース(インスタントメッセンジャーの先駆け)
1997年
- 7月:ラリー・ペイジとセルゲイ・ブリン、検索エンジン「Google」として名称変更
- IBM Deep Blue、チェス世界チャンピオンのガルリ・カスパロフに勝利
1998年
- 9月4日:Google Inc.設立
- メンロパークのガレージオフィス
- 9月:PageRankアルゴリズム論文発表
1999年
- Napsterリリース(P2Pファイル共有)
- BlackBerryサービス開始
2000年代:ソーシャルメディアとクラウドの時代
2000年
- ドットコムバブル崩壊
- Google AdWords開始
2001年
- Wikipedia開始(ジミー・ウェールズ、ラリー・サンガー)
- 9.11テロ:インターネットの重要性再認識
2003年
- 10月28日:Skypeリリース
- WordPressリリース
2004年
- 2月4日:Facebook開始(ハーバード大学)
- マーク・ザッカーバーグ(19歳)が寮で開始
- 3月31日:Gmail ベータ版開始(1GBの大容量)
- 8月19日:Google株式公開
2005年
- 2月:YouTube設立
- 8月:Google、Android Inc.買収
2006年
- 3月21日:Twitter設立
- Amazon Web Services(AWS)開始
- クラウドコンピューティング革命の始まり
- Facebook、一般公開開始
2007年
- 1月9日:iPhone発表(スティーブ・ジョブズ)
- スマートフォン革命の開始
- 10月:Android発表
2008年
- 9月2日:Google Chrome ブラウザリリース
- 10月31日:ビットコイン論文発表(サトシ・ナカモト)
- リーマンショック
2009年
- 1月3日:ビットコインネットワーク開始
- WhatsApp設立
2010年代:モバイル・AI・ブロックチェーンの革命
2010年
- 4月3日:iPad発表
- タブレット市場創出
- Instagram設立
2011年
- 10月5日:スティーブ・ジョブズ死去(享年56歳)
- Siri発表(Apple)
2012年
- AlexNet、ImageNet競技会で圧勝
- 深層学習革命の始まり
- Facebook株式公開
2013年
- ジェフリー・ヒントン、GoogleにDNNresearch売却
- Google Glass発表
- Slackサービス開始
2014年
- iPhone 6/6 Plus発表(大画面化)
- Google、DeepMind買収
- Amazon Echo(Alexa)発表
2015年
- TensorFlowオープンソース公開(Google)
- Apple Watch発売
2016年
- 3月:AlphaGo、囲碁世界チャンピオン李世ドルに勝利
- 11月:OpenAI設立
- Pokemon GOリリース(AR/位置情報ゲーム)
2017年
- 6月:Transformerアーキテクチャ発表(Google)
- 「Attention Is All You Need」論文
- iPhone X発表(Face ID、ホームボタン廃止)
2018年
- 6月:GPT-1発表(OpenAI)
- GDPR施行(EU)
2019年
- 2月:GPT-2発表
- 10月:Google、量子超越性実証発表
- Disney+、Apple TV+等ストリーミング戦争激化
2020年代:生成AI・メタバース・Web3の新時代
2020年
- COVID-19パンデミック
- リモートワーク、オンライン教育の急速普及
- 5月:GPT-3発表(OpenAI)
- Apple、独自チップ「M1」発表
2021年
- 3月11日:デジタルアート「Everydays」、NFTとして約75億円で落札
- 10月28日:Facebook、Metaに社名変更
- メタバース戦略を宣言
- 11月:Ethereumアップグレード、Proof of Stake移行開始
2022年
- 4月:イーロン・マスク、Twitter買収発表
- 8月:DALL-E 2、Midjourney等画像生成AIブーム
- 11月30日:ChatGPT公開
- 5日で100万ユーザー突破の社会現象
2023年
- 3月14日:GPT-4発表
- 5月:Google、Bard対話AI公開
- 10月:ジェフリー・ヒントン、ノーベル物理学賞受賞
- 11月:OpenAI、GPTs機能発表(カスタムAI作成)
2024年
- 生成AIの企業・教育現場への本格導入
- 量子コンピュータ実用化への技術的マイルストーン
- Apple Vision Pro発売(空間コンピューティング)
2025年(予測)
- AGI(汎用人工知能)への技術的接近
- 6G通信技術の実用化開始
- 量子インターネット実証実験拡大
主要技術の発展サイクル
コンピューティングパワーの進化
- 1940年代:真空管 → 1950年代:トランジスタ → 1970年代:マイクロプロセッサ → 2000年代:マルチコア → 2010年代:クラウド・GPU → 2020年代:量子・AI専用チップ
プログラミングパラダイムの変遷
- 1940年代:機械語 → 1950年代:アセンブリ・FORTRAN → 1960年代:COBOL・LISP → 1970年代:C・Pascal → 1980年代:C++・Objective-C → 1990年代:Java・JavaScript → 2000年代:Python・Ruby → 2010年代:Swift・Go → 2020年代:AI支援プログラミング
ネットワーク技術の発展
- 1960年代:ARPANET → 1980年代:TCP/IP → 1990年代:World Wide Web → 2000年代:ブロードバンド・WiFi → 2010年代:4G・クラウド → 2020年代:5G・エッジコンピューティング
人工知能の波
- 第1次AIブーム(1950-1960年代):記号処理・探索 → AI冬の時代(1970-1980年代) → 第2次AIブーム(1980年代):専門家システム → AI冬の時代(1990年代) → 第3次AIブーム(2010年代-現在):機械学習・深層学習・生成AI
この年表は、コンピュータサイエンスの歴史が個人の天才的発明から、集合知による協働開発へと変化してきた過程を示している。特に2020年代以降は、AI、量子コンピュータ、Web3、メタバースなど複数の革新技術が同時並行で発展し、相互に影響を与え合いながら新しいデジタル社会を形成している。